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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)453号 判決 1981年8月17日

原告

森田すみ子

右訴訟代理人

仙波安太郎

川谷道郎

被告

くいだおれ不動産株式会社

右代表者

山田六郎

右訴訟代理人

鳥巣新一

野中英世

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1のうち原告が原告宅で飲食店を営業すること、同2のうち原告宅の真東側に四階建の本件建物が建築されたこと、同4のうち原告が被告に対し、その主張日時頃に主張の如き是正措置要求ないし調停申立を行なつたこと及び本件建物の所在地域が建物基準法上の商業地域に指定されていることは当事者間に争いがない。

二そこで、本訴請求の当否につき以下、順次検討するに、前記争いのない事実のほか、<証拠>を総合すると、以下の各事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  本件は、大阪市南区西櫓町一一番地、通称浪花座権丁と呼ばれる路地に面する建物間の日照等に関する紛争であり、右路地をはさんで西側に原告宅が、東側に本件建物が存在すること

2  被告は、従来本件建物を新築する以前に、同じ場所に昭和二四年頃から旧建物を所有し、同所で飲食業を営んでいたこと

3  旧建物の西側に隣接する料理屋が昭和二五、六年頃取り壊され、その跡地に、前記路地をはさんで両側に各八店舗づつの二階建長屋二棟が新築されたこと

4  その後、右長屋二棟のうち東側一棟(すなわち、路地の東側にあり、旧建物に隣接する一棟)を被告が買い受け、これを取り壊したうえ右路地に面するまで旧建物を増築したこと

5  このため、旧建物は実質三階建の建物となり、その西側には幅約1.45メートルの前記路地をはさんで八軒長屋の二階建物一棟が残つたこと

6  原告は、その後昭和四一年七月頃、右長屋のうち南から二軒目(ないしは三軒目)の本件原告宅に入居して、一階でおでん屋「寿美」を営業し、二階に一人居住するようになつたが、右原告宅には右路地に面した東側二階にわずか一つの窓があつたにすぎないこと

7  被告は、昭和五二年頃、旧建物の建替を計画し、その頃原告に四階建の本件建物を建てたい旨告げ、その工事期間中には、原告の要求に沿つて、同人を九日間ほど市内のホテルに宿泊させたうえ、前記窓には目張り用の庇を設置したこと

8  本件建物は、建築基準法上の確認手続を経た後、同年一二月二〇日頃竣工したこと

9  被告は、以上の建替に際し、さらに、自己に使用権限があつた前記路地の東半分にまで進出することなく、これをそのまま路地として確保したこと

10  原告は、本件建物の竣工により、以前にもまして原告宅に風が強く吹きつけ、日照時間も滅つて圧迫感を感じるようになつたとして、昭和五三年五月頃原告宅から転居し、原告宅には、毎夜の営業(午後五時から同一二時頃まで)のため転居先から通勤する生活になつたが、原告宅を除く同長屋の他の入居者は、いずれも飲食業を営みながら、以前から通いであり、同長屋には原告のほか居住している者はいなかつたこと

11  原告は、当時五四、五歳の女性であつたこと

三ところで、前認定のとおり、原告宅には東側に窓が一つあるだけであり、しかも本件建物の建築に際し、これに庇が取り付けられたこと、また、前掲各証拠によると、本件建物の高さは旧建物のそれより高くなつたことも考えられないではないことの各事情のほか、原告本人尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認められる<証拠>によると、本件建物の建替前後で、原告宅における前記窓からの日照享受時間に何らかの差が出てきたことは容易に推認しうるものの、原告自身、その差は建替前日照享受時間が合計一二五分(有効日照時間は一〇三分)であつたのが、建替後同合計五〇分(同四二分)に滅少した旨主張する(請求原因3項)のみで、全く日照享受が遮られたものでもなく、さらに弁論の全趣旨によりその成立が真正なものと認められる<証拠>をも参酌すると、右主張そのものが十分立証されたものとも認め難い。しかして、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

判旨四以上によると、本件現場は商業地域にあつて、原被告ともに同所で飲食業を営み、とくに被告は、原告が原告宅で営業を始めるよりはるか以前から、旧建物にて右営業を行なつていたこと、被告は、旧建物から本件建物への建替に際して、一応原告に事前に説明し、原告の要望に沿う措置もいくつかとつたこと、しかしてその建替は行政取締法規上の手続を履践して行なわれていること等が明らかであるほか、本件建替に関し、被告に原告を害する意思があつたとまでは推認しがたいこと及び原告の前記認定における日照、通風等の被害の程度などを総合考慮すると、被告の本件建物建替行為は、いまだ社会的に許容された範囲内のものと認められ、原告の右被告も社会通念上受忍限度内のものと解される。よつて、被告の右行為は違法とまではいえず、他に右違法性を推認させるに足る資料はない。

五よつて、原告の本訴請求は、その余について判断するまでもなく理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(榎下義康)

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